【追悼】見た目ほど怖くない「軍国喫茶と戦史館」


姶良の方から見晴らしのいい国道10号線を走りAZはやと(巨大スーパー)に向かう途中、見過ごすことのできないほど強烈なインパクトの建物があった。


それが今回紹介する「軍国喫茶」と「戦史館」だ。どちらも同じ横道貞美さん(トップ画像のおじさん。2022年にお亡くなりになったそうです)がやっている。まあまずは外観を見て欲しい。



これ、スルーできます?


どうみても、セルフビルドだし

変にカラフルでやたらと怪しい匂いを放つ文字列が多い


ちょっとおもしろそうな空気が流れているじゃないですか?



そして、ちゃんぽんやうどんとか書いてあるので食事がとれそう。


営業中とも書いてあるので、ならば入ってみるしかない!


軍国喫茶の中はカウンターと小上がりがあり、最大で20人くらいは入れそう。


(が、一度に対応できるのは2~3人だろうな)


席に着くと、横道さんがカセットテープのコンポで演歌をかけてくれる。


うどん300円から、唐揚げ定食でも500円という安さ。


1杯300円のうどんは注文が入ってからダシをとり、畑に生えているネギを切り、サービスで卵も入れてくれた。器やレンゲに少し汚れがあり衛生意識の高い人にはおすすめはできないが、うどん自体はダシが少々甘めながら美味しかった。

なお、1杯出てくるのに10分はかかる。唐揚げ定食もおそらく衣を作るところからはじめていると思われる。なので、食事を食べるなら最低30分は見ておいた方がいい。





横道さんは右翼思想家ではない。

料理を作っている間も横道さんは話しかけてきます。


横道さんは現在87歳(2018年当時)。56年前(1962年)、天文館で軍国酒場を開き(天文館のお店は閉店)、ここ霧島でも45年軍国喫茶を開いているとのこと。「軍国」なんてついているから猛烈に右寄りな思想家かと思いきや戦争の話は聞けばこたえてくれる程度で思想を押し付けてくることはなかった。それよりも、「親を大事にしなさい」とか「人と争うような事があれば自ら身を引いて仲良く過ごしなさい」とか、普通に丁寧で人柄のいいおじいちゃんだった。




軍国酒場や戦史館はなぜできたのか?

横道さんは戦時中はまだ中学生で戦場に出た経験はない。ならなぜこういったお店を作ったのか。

鹿児島訛りが強くあまり聞き取れなかったのと、記憶があいまいなのでザックリ書くと…


横道さんは昔仲間の保証人になり数千万円の借金を背負ってしまったとのこと。時を同じくして鹿児島には戦争帰りの人が多くおり、そんな人たちを励ますために「軍国酒場」を作ったと。戦争賛美ではなく、横道さんが見ているのはあくまで「人」。そう軍国酒場は人々に元気になってもらうためのお店だったのだ。


そして、お店の評判を聞きつけた人たちが全国から大勢押し寄せお店は大繁盛。借金もすっかり返済し、戦争で亡くなった方々を弔うためと、戦争を知ってもらい二度と悲劇を繰り返さないために戦史館を建てたとのこと。





西郷隆盛があまり好きではない?

鹿児島では西郷隆盛が大人気!だけど、横道さんはあまり好きではないとのこと。その理由は西郷さんは「国のためなら死ぬ」という教えを広めたからだとか。その教えのせいで戦争で多くの若者が亡くなってしまったと。同様の理由で昭和天皇もあまり好きではないそうな。




なぜヘルメットを被っているのか?

横道さんはいつでもヘルメットを被っている。

なので、なぜヘルメットを被っているの?と訊ねたところ、「頭をぶつけてしまうから」と単純明快な答えが返ってきた。他にも理由はありそうな気もするがひとまずそういうことだ。


ちなみに、軍国喫茶のベースの建物などはちゃんと本職の大工さんが建てているが、改装は横道さんが自分で行っているとのこと。なんでも「ボケ防止」のためなんだとか。

戦史館の入場料は300円。横道さんが直接案内してくれる。


やぐらをくぐると、中は戦史館まで続く通路になっている。


そして、そこにもコンクリートの模擬爆弾や、アメリカ軍が落とした不発弾の展示が。

やぐら内と、やぐらを下から見上げた写真


これをひとりで組み立てるとか…。


たしかに油断すると頭を打ちかねない低めのアーチをくぐって戦史館へ




戦史館の中には模型や軍服や装備品、切り抜き、昔のお金など様々なものが展示されている。


それらは横道さんが自ら集めたものだけでなく、いろいろな方から寄付されたものとのこと。

個人でこれだけの物を集めたということで横道さんも誇らしげ。


「軍国喫茶」の二階に移転?した「軍国酒場」も見せてもらった。


軍国酒場に置いてあるマネキンたち


横道さんのマネキンの使い方はなかなか独特


LDで軍歌もかけてくれました。集まった人たちと軍歌を合唱するそう。


軍国喫茶は10時くらいから17時くらいまで。

それ以降はこの酒場がオープン。人が居る時は22時くらいまでやっているとのこと。


外観を見ると一見怖い場所だけど、横道さんは変な思想も押しつけてこないし、とても優しい方なので興味を持った方は是非訪れてみてください。


ただし、横道さんと話して最低1時間は滞在することになると思うので、時間のある時に訪れてくださいね!



2024年追記

再びこの地を訪れました。

戦史館が「開館中」となっていたので入ってみたところ、横道貞美さんの娘婿さんが片付けをしていたので話をしてみたところ… 横道さんはすでにお亡くなりになっていると。


櫓が台風に飛ばされると危ないからと櫓を解体したのが2020年。

それから2年後にお亡くなりになってしまわれたとは。

行くたびに何度でもコーヒーを注いでくれた横道さん。もう一度会いたかったです。


横道貞美さんの御冥福をお祈りします。


武家屋敷の日々リターン ~入来麓武家屋敷での回顧録~

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小島健一

ここ十数年「社会科見学」や「地下施設」をWEB、書籍、テレビなどで紹介しています。
九州最後の炭鉱「池島」ではタモリさんをご案内(ブラタモリ)。
その後、長崎大学で軍艦島の3D化研究とかしてました。
鹿児島の武家屋敷を拠点に全国武者修行後、現在は埼玉在住。

https://www.kenichi-kojima.com/